大学時代の友人がこの度めでたく結婚しました。

まぁ私の大学時代って断末魔の悲鳴と鮮血に彩られた阿鼻叫喚でこの世の地獄かと思えるほど暗黒の時代なんですが、具体的にどう暗黒かと言いますと複雑に入り組んだ人間関係という名のジャングルに潜む死の危険を掻き分け孤独と戦いながらも必死に生き延びるロンリーウルフって感じで、いやいやそれってあんまり具体的じゃなくね?といったところですよ。友達が全くいないというより友達関係のパイプが方々に伸びすぎな割に一本一本のパイプが激細で、お互いに電話番号を交換して携帯のアドレス帳は溢れんばかりに詰まっているくせに連絡はほとんどしない人ばかり、場の空気を読んだうえで上手くポジション取りし、集団の中での生活を円滑にこなしていくのに途方もない神経を使うような戦場の最前線に送られた兵士的エブリデイを過ごしてきたわけです。A、B、C、Dの四人で行動するのにAと各々は友人同士であるもののB、C、D間は初対面だったりなんてザラにありますから多分誰か1人が突然命を落としたとしても誰も気付きません。まさに戦場の狼!

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しかしそんな凄惨な殺戮の場を供に生き延びた戦友がたった1人だけ私にはいましてね。上っ面だけのトモダチなどとは一線を画す真の相棒、ふと気付けば私の横には常にアイツがおり、アイツの横には常に私がいる。お洒落でナウいトレンディな言い方をすればWアサノみたいなそんなアイツが遂に結婚することになったのです。

アイツの人生の晴れ舞台、この私がしかと見届けねばなりますまい。アイツから電話で結婚の報告を受けた際、式の日取りやその他の詳細、互いの近況の報告などを他愛もない話をしながら懐かしく語り合いました。「おまえ、式には絶対来てくれよ」「ああ、行くぜ。必ずな」もう愛や友情だなんてとっくに忘れてしまったはずの私でしたがアイツの歓びの一報が年齢を重ねるにつれ次第に失われていった私の中の大切な何かを思い出させてくれたのです。アイツの幸せな顔がみたい、友人として祝福の輪に参加したい、そんな思いを募らせ式に招待された他の友人たちの面々について聞いてみると…

昔からの友達グループ数人

地元の知人や後輩グループ数人

大学時代の友人ミスターM1人

以上が新郎の友人として同じテーブルを囲むようになるとのこと。うむ。やっぱ狂おしいほど行きたくない。

同テーブル内の一方では高校時代の懐かしい話で数名が盛り上がり、また一方では地元の話題に数名が華を咲かせ、そして片隅で気配を消しつつ大学時代のことを1人思い出しては新郎新婦やそのご家族とは違う理由で静かに涙を流している私みたいな構図が浮かんでくるわけです。ヘッ、まさか大学時代のあの孤独な記憶を結婚式で再び甦らせてくれようとはな!まったくアイツらしいぜ!

運命の結婚式当日、完全アウェイの戦場に単身乗り込む私はなるべく早めに会場入りし、式開始前にアイツの他の友人たちと挨拶を交わしつつ何れかのグループ内にそれとなく入り込まねば間が持たないと判断し、予定より大幅に早い時間の電車に乗り込みました。会場最寄りの博多駅に到着し、初対面の参列者と私が折りなす爆笑トークをシミュレーションしながら改札を出ると緊張のせいでしょうか。おなかが危険信号を発していました。傍のトイレで用を済ませ心も体もリラックスした私はズボンを上げながら携帯を取りだし時間を確認すると開始時刻までかなりの余裕があります。来るべき決戦に備え精神を集中させるために静かに一服、まだ誰も入場していないであろう会場前でゆっくりと深呼吸し、携帯電話で再び時間を確認しようとズボンのポケットの中を探りました。
続いて胸ポケットを探りました。
さらにジャケットの内ポケを探りました。
そして股間を探りました。
最後に辺りをキョロキョロしました。
えぇ、どう考えても携帯がありません。
いや、こういうときって実は意外な場所に隠れているはずなんですよ。近くの植木を素手で掘り起こしたり、天下の公道でアヌスをめくり返してみたり、思い付く限りの意外な場所を探してみましたがカゲもカタチも見当たりませんがな。落ち着け!落ち着いてよく思い出せ!

>>傍のトイレで用を済ませ心も体もリラックスした私はズボンを上げながら携帯を取りだし時間を確認すると
そこだ!駅のトイレだ!ネクタイを激しく風に靡かせ、ヒトゴミを掻き分けながら駅のトイレまで光の速さでダッシュです。結婚式の日に友人のため全力疾走!走れメロスか!汗だくの形相でトイレに駆け込むなどどう見てもウンコ漏らしてそうな人みたいですが実際トイレに入ったら何処にも携帯ないですからね。衝撃のあまりマジでウンコ漏らすかと思いました。公衆電話からマイ携帯に烈火の如く電話をかけるとロボチックな冷たい声のアナウンスで「お繋ぎできません」さらに連続コンボでコールを重ねると「通話中」てなことになってますし、ウンコの香りに混じって何やら危険な香りが漂ってきましたよ。

誰かが私の携帯を拾ってくれたは良いのですが何度かけても通話中とはコレ如何に?拾った私の携帯でジンバブエやプエルトリコなどワケワカランとこに電話をかけまくり通話料が5000兆円とかになったら結婚おめでとうどころの騒ぎじゃなくなるので携帯電話の利用を止めてもらうためにそのままの勢いで携帯ショップへ走り、殴り込み的様相で「止めてください!止めてください!いっそ私の息の根を止めてください!」とかキチガイみたいなことを叫びながらショップのお姉さんに泣き付きました。

強盗レベルの招かれざる客にドン引きのお姉さんでしたが、さすがはプロです。私の言わんとすることを瞬時に察知してか携帯番号を聞くや否やテキパキと何かしらの作業を開始します。「作業終了からご利用停止までに30分ほどお時間いただきますがよろしいですか?この場で機種変更なさるなら即時停止できますが」う~む、何だか足元みられてる感じも否めませんが機種変更も大した時間かからないらしいので思いきってお願いすることにしました。「わかりました。只今ですとコチラの機種が48000円です。」いやふざけるのもいい加減にしてほしいもんですぜダンナ。48000円なんて財布に入ってませんし、銀行まで行ってお金を下ろすどころか命すら落としかねない金額ですよ。

「ただしお客様のポイントとかキャンペーン的なアレとかそういうのを計算に加えると48000円から8000円になります」

「決めたァァーッ!!!!」

もしかして乗せられてますか?いや乗せられているか否かは問題ではないのです。とにかく携帯を何とかして式に出席すること、そしてアイツの勇姿を飾ることは金銭には代えられない大切な男の約束なのです。真新しい携帯とauって書いてある紙袋を手に再び式場へと走ります。ハプニングの間に時間もかなり差し迫りもう式開始ギリギリchopです。急がなければ。式が始まってしまい、その最中に乱入するとなると

「ソレデハ、誓イノキスヲ」

「バタン!ちょっと待ったァーッ!!」

ざわめき立つ参列者をよそに新婦の手を握り、そのまま夜の闇に消えていく純白の花嫁とミスターM。今ここに新たな愛の物語が始まるのだった―――なんてことになりかねません。こうなると結婚式ぶち壊し、花嫁強奪に至るわけで全くおめでたくない。

心臓破りの本気ダッシュの甲斐あってかドラゴンボールで言うところの仲間がピンチのときにギリギリ間に合った悟空くらいのタイミングでスライディング入場に成功し、到着までの伝説を「ウンコ!」「ジンバブエ!」「花嫁強奪!」と涙混じりに語ることで初対面の新郎友人たちの笑いというか同情をゲット!どうにかやり過ごすどころか二次会、三次会と進むにつれ初めて会う面々にも関わらず完全に打ち解けあうミラクルを起こしていました。逆境を好機に代える不思議な力が結婚式には宿っていたのです。

披露宴でも「あなたがミスターM?噂は聞いてますよ?にやり」と100%中500%の確率で悪口と思しき噂が広まっていたようで、たしかに携帯ショップの紙袋ぶらさげての入場で出落ちは完璧ですし、なんか普通に席に座ってるだけで笑いが生まれてましたからね。私って神の域に達したオモシロの申し子です。

結婚式も笑いあり涙あり食事ありの素晴らしいもので新郎新婦の愛情の確認は勿論のこと「またこのメンバーで一杯やろうよ」と私にとっても新たな仲間との友情まで芽生えるという最高の式でした。本当に出席してよかったと心から思いますし、新たな人生をともに歩む二人にも絶対に幸せになってほしいと願います。私がいつの間にか忘れかけていた大切なもの、それは恋人や友達を思う気持ち、すなわち「愛」だったのです。二人ともおめでとう。そしてみんなありがとう。

万感の思いで家に帰り、何気なく新しい携帯をポケットから取り出すとアドレス帳のメモリーが一件もないことに気付きました。今日出会った友人たちには新郎のアイツ伝いに連絡取れるからいいやと余裕こいてましたが、肝心のアイツのアドレスも博多駅のトイレで携帯と一緒に失くしてますからもし先方から連絡がなかったら完全に私は孤立ですよコリャ。それどころか普段使う他の連絡先も全くのゼロですからきっと私が突然命を落としても誰も気付かないなんてこともあり得ます。

ヘッ、まさか大学時代のあの孤独な記憶を結婚式で再び甦らせてくれようとはな!まったくアイツらしいぜ!

投稿者 mrm

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