とある何人の一言 – ミスターMの大気圏突入 –

ようこそ『とある何人の一言』へ。笑いの観点から社会を正す謎の男、ミスターMが私の個人的な価値観を拠り所に、刺して刺して刺しまくります。

第二十五回掲載「ミスターMオススメのウマい店」

      2014/10/08

近所にね、寂れた定食屋があるんです。寂れたと言っても客が絶望的に少ないとか食いモノが抜群にマズいとかいうわけではありません。ただその定食屋に来る客が酒とギャンブルにしか楽しみを見い出せないような世捨て人的なオヤジや日々の仕事に追われて疲れきり、いつしか笑うことすら忘れてしまったサラリーマンみたいな少々アレな感じのする猛者ばかりなんです。空気も何か澱んでいて行ったことないけど多分刑務所の内部の風景ってこんななのかなとか思わせるくらいのブッチギリな荒みっぷり、普通の定食のはずが不思議とクサいメシに見えてきます。「ごはんのお代わり自由」以外は一切の自由が認められてなさそうな異空間ですから目が合ったの合わないだのの理由でフォークを武器に客同士のバトルロイヤルが始まりそうな予感です。

まぁね、私もアレっぽさではそこらのアレな人には負けないくらいの生粋のアレですからもちろんその店の常連なわけですよ。国家転覆級の大罪を犯した大悪党並みに通いつめ、WANTEDと書かれた私の似顔絵付きの貼り紙が街中の電柱にバシバシ貼られて賞金とかかけられていてもおかしくないほどのお得意さんなんですけど、このほどそんな魔界の如き定食屋の事情ががらりと様変わりする大ハプニングが起こったのです。

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お店は基本的に干し柿みたいに干からびたジーサンとスルメみたいに干からびたバーサンが切り盛りし、たまに現れる肝っ玉母さん風のオバチャンが厨房で豪快に中華鍋を振り回したりしてるんですが、最近この壮々たるメンバーに新入りの女の子が加わったようでコレがまた圧倒的カワイコちゃんなんですね。何故この娘がこんな寂れた定食屋で働いているのかわからない。きっと辛い毎日を送っていて家では病気の母親の世話をし、年の離れた弟の面倒をみているに違いない。もうこの冷奴に味付けなんて必要ない。俺の涙の塩味だけでいい。と勝手に思わざるを得ないかわいさです。良い意味で場違い、良い意味で人選ミスなのは明らかです。

ともあれこのカワイコちゃんの登場のおかげで監獄ヨロシクだった店内が急遽一変し彼女に逢える定食屋がこの世の極楽、逢えないシャバがこの世の地獄みたいな逆転現象、大どんでん返しが巻き起こったわけです。女神降臨の影響はそれだけに留まりません。私ってヤツはメシの直後は必ずと言っていいほどウンコがしたくなる、どうしてもウンコがしたくなる、ていうかウンコ以外したくないってなくらい食後のウンコが欠かせないわけでして定食屋のトイレは私の聖域みたいなところがありましたがお陰様で彼女が現れてからというもの二度とウンコなんて出来なくなりましたからね。無駄に美しい詩的表現を用いますとかつては夜空に星を散りばめたように便器の内外にウンコを飛び散らかしていたんですが今そんなことをすると恋が散ってしまいかねない。ウンコと一緒に恋も流されてしまいかねない。

彼女のおかげで店を利用する際は色んな意味で胸ドキなランチタイムもしくはウンチタイムを過ごすに至った次第ですが、こないだいつものようにゴキゲンに唐揚げ定食を食ってるときに、ふと同じテーブルの向かいの席に目をやると何とそこには分厚いメガネをかけた牝馬が座ってやがるんですよ。牝馬がテーブルに付いてニンジン定食だか干し草定食だかを待っているのです。どう考えても定食屋には、いや、日常の何処にも考えられない風景なのですがよくよく見たら馬ではなく限りなく馬に近い顔をもつ旧友のK子でした。

いやいや、以前から馬面でお馴染みのK子でしたが久しぶりに見るとさらに馬っぽくなっています。神のイタズラも度が過ぎたのか顔を左右から万力を使って全力で締め上げたかの如く縦のラインが強調されまくったドッキリフェイスですからね。ヘアスタイルも髪質のためなのかそういうスタイリングなのか知りませんがタテガミみたいになってエアコンの風になびいています。馬かと思ってよく見たらK子、K子だと気付いてもう一度見たら馬、そんなはずはないと更に見たらやはりK子ってなくらい完璧な馬との同化です。

久しぶりに会った幼なじみの女の子が色っぽくなっててドキッ!てのはよくある話ですが久しぶりに会った幼なじみの女の子が馬っぽくなっててドキッ!なんてそうそうあるもんじゃありません。懐かしさも相俟って話しかけたところ「K子!久しぶり!」「ヒヒ~ン」「元気してたか?」「ブルルッ」とトークもG1レース並みの盛り上がりを見せていました。何より圧巻なのが噂のカワイコちゃんとK子が並んだ瞬間です。カワイコちゃんに羽根が生えたらそれこそ天使ですがK子に羽根なんて生えようものならペガサスにしか見えず、こりゃもう同じ生き物とは思えません。

食事が済んだ後も馬とノリノリで乗馬みたいにはしゃいでいた我々ですがそろそろウンコの時間が迫ってきそうなので長居は無用です。「俺、よくココ来るから!じゃあまた今度な」なんて話しながら馬と一緒に退店しようとすると件のカワイコちゃんから満面の笑みで「ありがとうございましたぁ。もしかしてカノジョさんですかぁ?」とか言われてしまいました。しまった!これはマズイ!非常にマズイ!少し調子にのってK子と仲良くしすぎたようです。もちろんカノジョではありませんしそんな誤解を受けてもらっては困るので全力で否定しなければなりませんが「ちちち違います!絶対に付き合ってません!」なんて必死になると逆に怪しいですよね。いままで散々ウマヅラとか言っておいて何ですが隣にいるK子にも失礼な気がしますし、何より不ゥ然すぎてカワイコちゃんに対する私の想いを勘付かれるかもしれません。

慌てた私は迫り来るウンコの驚異のせいもあって冷静さを欠いていたため先のことを計算する余裕などなかったのですが、ここは何とか巧くやり過ごさねばなりません。とにかく全力の否定はヤバい!全力の否定だけはいけない!

「カノジョさんですかぁ?」

「ええ、まぁ」

いやね、全力の否定がダメだからってやんわり肯定してどうすんですか。窮地に立たされた私なりに計算してみた結果がどう考えても計算ミスとしか言い様がありません。

かくして監獄の定食屋から晴れて釈放となったわけですがまるで出所の刑とも呼べるようなパラドックスです。馬のせいでウマくいかなくなった私とカワイコちゃんの関係は愛がウマれる前に終わってしまったのです。

え?ウンコはどうしたかって?そんなもん野糞ですよ。その辺にウマってますよ。

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